【自民党憲法改正草案編⑩】
緊急事態条項(国会維持機能条項)の追加は独裁政権の誕生を意味する!(後半)
これまでの記事
【自民党憲法改正草案編①】~自民党憲法改正草案は国民家畜化の暗黒な未来に向かうもの!~
【自民党憲法改正草案編②】~憲法とは何か?~
【自民党憲法改正草案編③】~憲法を守らない権力者とは独裁者~
【自民党憲法改正草案編④】~自民党憲法改正草案の“真の狙い(目的)”は主権者を「国民」から「政権」に変更する革命に他ならない!~
【自民党憲法改正草案編⑤】~自民党憲法改正草案は自由と人権の破壊に他ならない!~
【自民党憲法改正草案編⑥】~「前文」「天皇」「国民の権利と義務」について~
【自民党憲法改正草案編⑦】~「改正草案第12条」「家族・新しい権利」について~
【自民党憲法改正草案編⑧】~「公務員の選定」「環境保全の責務」「財産権」「国会」「内閣」「地方自治」について~
【自民党憲法改正草案編⑨】~緊急事態条項(国会維持機能条項)の追加は独裁政権の誕生を意味する!(前半)~
緊急事態条項(国会維持機能条項)の追加は独裁政権の誕生を意味する!(後半)
《緊急事態条項の宣言》
自民党草案
第九章 (緊急事態の宣言)
第九十八条
内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。
2 緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。
3 内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったときは、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移による当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。
4 第二項及び前項後段の国会の承認については、第六十条第二項の規定を準用する。この場合において、同項中「三十日以内」とあるのは、「五日以内」と読み変えるものとする。
《緊急事態条項の効果》
(緊急事態の宣言の効果)
第九十九条
緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。
2 前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければならない。
3 緊急事態の宣言が発せられた場合は、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他の機関の指示にしたがわなければならない。この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大級に尊重されなければならない。
4 緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。
〈自民党の改正理由は、誤解を招く詐術〉
自民党のQ&A(自民党の改正理由)には、こうある。
書籍『赤ペンチェック 自民党憲法改正草案』より抜粋引用
国民の生命、身体、財産の保護は、平常時のみならず、緊急時においても国家のもっとも重要な役割です。東日本大震災における政府の対応の反省も踏まえて、緊急事態に対処するための仕組みを、憲法上明確に規定しました。このような規定は、外国の憲法でも、ほとんどの国で盛り込まれています。
緊急事態条項賛成の人たちがよく言う主張ですね。
現実はどうなのかと言えば、世界中の各独立国家において緊急事態条項(相当する法規を含む)は約9割となっている。
逆に緊急事態条項がない国は、日本、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ノルウェー、ベルギーなどがある。
しかし、問題はその内容にある。
議員の期間延長、延長時の議会承認などに制限を設けるケースが多くあり、各国によって内容には違いがある。一口に「緊急事態条項」と言っても同一ではないということ。
つまり、細かい分析まで説明せず、世界中の国家に緊急事態条項があるという言い方は、聞き手に誤解を与える伝え方でしかないということ。
多くの場合、人権保障、立憲の制限(憲法改正禁止、緊急立法の事後承認を含む)などの濫用を防ぐ防止策が盛り込まれており、完全に無制限な権限付与の緊急事態条項はあくまでも少数である。
そもそも海外がどうであれ、日本は日本として考えればいいことであり、海外に合わせる理由はない。外国の多くが緊急事態条項を入れているから日本も入れるというならば、国際的模倣でしかなく、一種のプロパガンダ的手法でしかない。
多くの国が制限を設け、自由と人権の保護をきちんと考えているにもかかわらず、自民党が考えている緊急事態条項は、「制限がないに等しい条項」となっている。それを正直な言葉で表現すれば「独裁権力が誕生する可能性を持つ条項」ということができる。
海外がどうであれ、自民党が考えている緊急事態条項は非常に危険なものであることは間違いない。
こうした言論は、視点を不都合な部分から逸らし、なおかつ誤解させる言い方をすることで肯定的に受け止めることを促す詐術である。
自民党は正直というか、愚かにもQ&Aでこう言っている。
書籍『赤ペンチェック 自民党憲法改正草案』より引用
「必ずしも憲法上の根拠が必要ではありませんが、根拠があることが望ましいと考えたところです」
さらにこうも言っている。
書籍『赤ペンチェック 自民党憲法改正草案』より引用
緊急事態の宣言が発せられた場合には、国民は、国や地方自治体が発する国民を保護するための指示に従わなければならないことを規定しました。現行の国民保護法において、こうした憲法上の根拠がないために、国民への要請は全て協力を求めるという形でしか規定できなかったことを踏まえ、法律の定める場合には、国民に対して指示できることとするとともに、それに対する国民の遵守義務を定めたものです。
何を言っているのでしょうか?
協力で十分ですし、基本的に日本民族ほど協調性、親切心、忍耐力などの美徳を持つ民族は他に見つかりません。
真なる意図を隠し、きれいごとを並べ立て、もっともと思われる理論武装をして、国民に納得してもらおうとしても、私は騙されませんよ。
「必ずしも憲法上の根拠が必要ではありませんが、根拠があることが望ましい」というレベルの話を国家の最高法規に明記するということは、筋が通りません。
上記の理由は、「必ずしも憲法に明記する必要はないけど、あったほうが(政治家が)国民を統制できるから入れた方がいい」と言っているということです。
本当の狙いは、「国民に対して指示できる(国家体制の樹立)」であり、その証拠に「国民の遵守義務を定めた」のです。
「必ずしも憲法上の根拠が必要ではない」と言いつつ、国民の自由と人権を大きく制限することは、国家権力者の言いなりにすることが隠れた真の狙いです。
「国民への要請は全て協力を求める」、これで十分です。
詐欺師は前提で騙しますが、緊急事態条項も同じ手法が使われています。
それは緊急事態とは何かという点です。
戦争(我が国に対する外部からの武力攻撃)、大規模災害(地震等の自然災害)、内乱、その他の法律で定める緊急事態を同列に並べ立てている出発点が間違っています。
戦争と大規模災害ではその本質が違います。
戦争は、人間が意図して起こすものであり、政治的、経済的、イデオロギーなどの目的のために主に武力(軍事力)が行使されること。人間が起こすものであるがゆえに、交渉、講和等によって休戦、停戦、終戦が可能であり、対応する根拠としての戦時国際法が存在しているし、国内で発生することは法律レベルで対応が可能となる。
一方、大規模災害とは自然現象が起こすものであり、人間の意思で発生を止めることは不可能であり、予知・予測もほぼ不可能である。戦争が人間による「選択」によって止めることが可能であるのに対し、大規模災害は地理的・時間的な点において予測不能の事態として発生する。
要するに、戦争と大規模災害を同一に並べ立てること自体が騙しの手法だと、私は言いたい。
もっとはっきりと言えば、すでに大規模災害に対する国内の対処の法整備は存在している。ただ、それが絵に描いた餅となっていることが問題であり、法整備(憲法明記)の問題ではないこと。災害時に大切なことは「現場」なのです。被災者に寄り添うために、現場の判断と対処が必要であり、そのために備えをあらかじめ準備することこそが重要なことなのです。災害時に被災者の身体および精神的苦痛や困難状況を具体的に聞き取り、対処するなどということは現場を知らねば不可能であり、それを国家権力が行うことはほぼ無理であり、現実的ではないのです。災害時は被災者に寄り添うために地方自治体等が対処するべきであり、国家レベルで細かい対処はむしろ邪魔になるだけです。
しかし、戦争は、国家主導の対処をしなければならず、そのためには国民総動員であり、国民一致団結であり、国内の価値観を一致させる必要があるのです。
はっきりと言いましょう。
自民党の緊急事態条項とは、大規模災害への対処というよりも、戦争のための法整備です。災害等の対応は、国内の法律で整備するべきであり、そのオペレーションが機能するのかというチェックを常日頃から行うことこそが公の機関が国民のためにするべきことなのです。
また内乱は国内法のレベルで対処するべきであり、憲法に明記する必要はありません。
最大の問題は、「その他の法律で定める緊急事態」という部分です。具体的に何が該当するのかが国民にはわかりません。こういう表現をすると国家権力者側が恣意的に「あれもこれも」となんでもかんでも好きなように「緊急事態だ」と宣言することも可能です。要はそのための法律さえあれば緊急事態が宣言できるのですから。こんな無謀で身勝手な法規(条文)の存在は許されません。憲法の表現は「明確、簡潔、抽象的な概念以外は具体的に」、でなければならないのです。
自民党の考える緊急事態条項とは、内閣による恣意的な権力行使を発動させ、国民の自由と人権を取りあげて統治下に置くという状況を生み出す恐れが高い内容となっているので、国家権力を巨大化させ、国民の権利を最弱化させる非人道的な法秩序なのです。
伊藤真氏は自民党の改正理由に対し、以下のように反論しています。
書籍『赤ペンチェック 自民党憲法改正草案』より引用
「改正理由」にもあるように、東日本大震災で行政が迅速に対応できなかったのは、憲法に緊急事態条項を定めていなかったからだ」といわれることがあります。
しかし、当時から、大災害に対するための法律はほぼすべて整備済みでした。なぜ迅速に対応ができなかったのでしょうか。災害対策の基本は「準備していないことはできない」ということにあります。すなわち、災害対策基本法、災害救助法等、さまざまな法律のオペレーションの訓練をしていなかったからなのです。
さきほど戦争と大規模災害を同列にすることが間違いだと指摘しましたが、「大災害に対するための法律はほぼすべて整備済み」であるので、いまさら憲法に明記する必要はありません。それを当の自民党も認めているではないですか。ということは真なる目的は別のところにあるということです。
すでに指摘しましたが、隠された意図とは「戦争準備=戦争する国家への変貌」に他なりません。つまり、緊急事態条項とは「戦争法」だということ。
書籍『赤ペンチェック 自民党憲法改正草案』より引用
災害対策は、憲法に緊急権を定めて権力を集中するよりも、現場の自治体が十分な権限をもち、日頃から訓練しておくことが必要です。
現場から遠い官邸に権力を集中させても、情報が不十分なまま即座の対応ができず、的外れな指示がかえって対処を遅れさせることになりかねません。
災害時の対処の原則は、災害等で発生する不足物資や住居などを提供するための準備であり、医療体制をどうするのかという事前準備の計画を整えることです。国家の役割は被災した国民への物資等の備蓄です。
だから、備蓄米を放出するなどということは災害対策の真逆のことでしかないのです。
自民党が指摘されると嫌がる論点を言います。
「緊急権」とは、「戦争条項」に他ならないことです。
国家権力が主体(主導)となり、権力を集中させる緊急事態とは戦争のことなのです。
本当は、決して災害ではないのです。
災害では、現場に権限を降ろしていくことこそ、被災者に寄り添う対処が可能となるのです。逆に戦争は国家に権力を集中しなければ不可能な事態なのです。
このように相反する出来事を同一に並べ立てること自体が、国民に対する“罠”なのです。
国民は、「戦争は嫌だが、災害時の対応ならしかたがないか」、と考えるからです。
そうした国民の心理を逆手にとって戦争と災害を同一に並べ立てて緊急事態としているのです。つまり、戦争のための緊急事態条項を整備しますと言えば必ず国民から大反対にあい、憲法改正はまず不可能となる。だから国民の目を欺くために災害を戦争と一緒にして並べ立てて錯覚させているのです。
自民党が成立させようとする緊急事態条項の危険な点は、「内閣が法律と同一の政令を制定することができる」ことに尽きます。これは行政府でしかない内閣府が立法権を持つことであり、事実上の三権分立の破壊です。
この重大な問題に国民は気づくべきです。
書籍『赤ペンチェック 自民党憲法改正草案』より引用
草案は、内閣が「法律と同一の効力を有する政令を制定することができる」(草案九十九条1項)とし、立法権を内閣に集中させます。しかしこれは、内閣が新しく法律をつくるだけでなく、いままであった法律をすべて、時の権力に都合よく書き換えることができるのです。
緊急事態条項とは、行政府でしかない内閣が「法律と同一の効力を有する政令を制定することができる立法権」を内閣に持たせることで、内閣が新しく法律をつくり、時の権力に不都合な法律を書き換えることができる権限を与えるものなのです。
都合よく書き換えることができてしまうということです。
これを「独裁」というのです。
書籍『赤ペンチェック 自民党憲法改正草案』より引用
さらに、諸外国の多くでは、緊急時の権力行使を司法的にチェックする規定が憲法に定められています。しかし、自民党の草案にはそれがないため、権力行使を事後的にチェックする機会がなく、濫用のおそれはますます高まります。
プロパガンダの手法には、特定の部分だけを提示し、重要な部分(不都合な部分)を隠す(無視)というやり方があります。
ですから「緊急事態条項がない国家は世界中で日本だけだ」などという発言はプロパガンダ以外の何ものでもなく、緊急事態条項の内容こそ問題にするべきなのです。
《緊急事態条項とは、国民の生命よりも国家の存立維持を第一優先にすること》
書籍『赤ペンチェック 自民党憲法改正草案』より引用
国家緊急権とは、非常事態において、国家の存立を維持するために、国家権力が立憲的な憲法秩序を一時停止して非常措置をとる権限です。すなわち、「国民」の生命等よりも「国家」の存立維持が第一次的目的であることに注意してください。極論すれば、国民の生命を犠牲にしても、国家の存立維持を実現するための権限なのです。軍隊が国家の存立を守るために兵士の命を犠牲にするのと同じように、典型的には、戦時の緊急状態において、国家の存立を維持するために、国民の自由や財産を制約するための仕組みなのです。
また、緊急時ならば一時的な我慢も仕方がないと思う人もいるかもしれませんが、それは違います。緊急事態宣言により、衆議院は解散されなくなり、議員の任期が延長され、選挙は行われなくなり(草案九十九条4項)、宣言も100日ごとに更新できます(同九十八条3項)。したがって政権が緊急事態宣言を行い、更新しつづけることにより、政権を半永久的に存続させる危険があるのです。
〈自民党の緊急事態条項には“防波堤”がない〉
緊急事態条項を整備している諸外国では、濫用を防ぐために、宣言の終期や更新制限による歯止めなどが置かれています。しかし、自民党の憲法改正草案の緊急事態条項では、そうした“防波堤”が存在しません。よって上記で伊藤真氏が指摘しているように、時の政権が半永久的に存続し、司法権を行使し、国民の自由と人権を制限(奪う)する状態が恒常的となり、国民はただ国家権力の言いなりとされる可能性が予測されます。
つまり、国民は一人の人間として尊厳を奪われ、見えない家畜小屋に入れられた状態で、国家権力に歯向かわない国民だけが息をひそめて生存できる社会へと変貌する可能性が高い確率で起こりうるということです。
書籍『赤ペンチェック 自民党憲法改正草案』より引用
濫用的に更新を繰り返す危険性もいっそう高いのです。そうした永続性を防ぐために、諸外国の緊急事態条項には、宣言の終期や更新制限による歯止めが置かれています。ところが自民党の改憲草案では、歯止めになる仕組みがありません。「我慢」はけっして一時的なものとは限らないのです。
世界中で緊急事態条項がないのは日本だけだなどと言うプロパガンダを流す人間は、なぜ諸外国と日本の“内容の違い”に触れないのでしょうか。それは卑怯な言論を超えて、騙しの言論でしかないと言っておきます。
問題は、自民党が善意による運用を行うかということ。
しないでしょう。
というか国民からみたら濫用したいがために歯止めを用意していないし、現実に、自民党の政治家たちは数々の憲法違反や法律違反をしていますから、そのような倫理無き者たちが善意に基づいて緊急事態条項を運用するはずがありません。
国民は、改憲を阻止することこそ、自らの命を守る行動となるのです。
【自民党憲法改正草案編⑪】につづく
参考書籍
書籍名:『「憲法改正」の真実』
著者名:樋口陽一、小林節
出版社:集英社新書
書籍名:『【決定版】白熱抗議!憲法改正』
著者名:小林節
出版社:ワニ文庫
書籍名:『赤ペンチェック 自民党憲法改正草案』
著者名: 伊藤真
出版社: 大月書店
書籍名:『高市早苗という病』
著者名: 適菜収
出版社: ベスト新書
最後までお読みいただき、ありがとうござりんした!

