『警察が嘘をついて冤罪を生みだした!【前編】』

無実の人が不当逮捕された

事件は築地で起こりました。
2007年10月11日、二本松進さんは家業のお寿司店の仕入れのため築地市場に来ていました。
車の運転は妻の月恵さんがしていました。
月恵さんは車を道路の端に止めて、二本松さんが仕入れに行っている間そのまま運転席で待っていました。

そこに2名の婦人警官がやってきました。
駐車違反の取締りをしていたのです。
月恵さんは目の前で駐車違反の取締りを見ていたので、ハラハラしながら二本松さんの戻りを待っていました。
やっと二本松さんが仕入れを終えて車に戻って来たので、車を発進させようとしたところ、車の前に立ち塞がるように婦人警官が立っていたのです。
二本松さんは「すいません。発車しますのでそこをどいてもらえませんか?」と声をかけます。
婦人警官は二本松さんの声掛けに応じず、その場を動こうとしません。
再度どいて欲しいと声をかける二本松さんに、その婦人警官は「ここは法定禁止エリアだ!」と強気な態度をしめします。
車を発車させようにも婦人警官が立ち塞がっているため発進できません。
その婦人警官は築地警察署の女性巡査でした。
女性巡査は出発しようとする二本松さんに向かって「ここは法定禁止エリア」という台詞を繰り返します。
それに対して、二本松さんはすでにエンジンもかけて発進しようとしている車を妨害するなんておかしいと抗議しました。
それに対して女性巡査は「仕入れの車ならいいけど、乗用車はダメ!」と言い放ちその場所を動こうとしませんでした。
そうしたやり取りをしているうちに二本松さんも感情が高ぶってしまい、つい抗議する言葉もヒートアップしてしまいました。
二本松さんは、「他にも乗用車はいっぱいいるじゃないですか? なんでうちの車だけ取締まろうとするんですか?」と声を荒げます。
すると女性巡査は「ダメなものはダメ。ここは法定禁止エリアでしょ」とバカの一つ覚えの台詞をはき続けます。
その激しい言い争いに人だかりができてしまいました。

らちが明かないと思った二本松さんはもう一人の婦人警官に抗議します。
すると女性巡査は運転席の月恵さん(妻)に矛先を向けます。
「絶対に行かせない!」
と、あくまで駐車違反を取締まると強気な態度を崩しません。
月恵さんは抗議するためにドアを開けて車外にでました。
しかし、女性巡査は「これは乗用車!」と同じ台詞を繰り返して、仕入れ用の専用車ではないから取締まるんだと暗に伝えてきます。

月恵さんから抗議された女性巡査は、今度は二本松さんのところへかけよって「免許証だせ! 免許証だせ!」と言いながら持っていた切符カバンを横にして何度も付き出してきました。

運転者は妻の月恵さんですから、二本松さんは免許証を出す必要がないと訴えます。
「身分確認です。早く出せ!」と、もう一人の婦人警官がいいます。
横にいた女性巡査も「なんか後ろめたいことでもあるの?」と言って、免許証の提示を迫ります。
このまま言い争っていては店の開店に間に合わなくなると思い、二本松さんは妻の月恵さんに声をかけ帰ろうとしました。

月恵さんが運転席に乗り込もうとドアを開けると、女性巡査が「ちょっと待ちなさい」と言いながらドアを掴んで車に乗り込むことを妨害しました。
それを見た二本松さんが助けに入ります。
ドアの内側に二本松さん、ドアの外側に女性巡査と、二人はお互いにドアを掴みながらの口論が続きます。
しかたなしに「わかりました。話し合いましょう」と言って二本松さんはドアから手を放しました。女性巡査も手を放します。
二本松さんはドアを閉めます。

そこで女性巡査が意外な行動に出ます。
もう一人の婦人警官を呼んで二本松さんから離れた場所に移動し、なにかを伝えたかと思うと、無線機を取り出しました。
無線機に向けられた女性巡査の言葉に二本松さんは驚きます。
「暴行、暴行、暴行を受けています」

暴行??
二本松さんは、女性巡査がなにをいっているのか理解出来ませんでした。
さらに集まってきていた群衆に向かって左腕を上げて右手で指差して「暴行」と何度も叫んで、自分が暴行を受けたのだと主張し始めました。
このときの二本松さんは、暴行という意味がまったく分からなかったと言います。
すぐにパトカー2台がやってきます。
(築地警察署は築地市場のすぐそばにあります)

やってきた男性警官は公務執行妨害で二本松さんを逮捕してしまったのです
このとき周りには100名くらいの目撃者がいました
「なにもしてないでしょう!」


築地の空に二本松さんの悲痛な声が響きます。
二本松さんが手錠をかけられている様子を見ていた群衆は「理不尽だろうが!」「どこ連れて行く気?」「不当逮捕だ!」と数多くの非難の声が上がりました。
警官たちはそうした声を完全に無視して、手錠をかけられた二本松さんを無理やりパトカーに押しこみます。
二本松さんは築地警察署に連行されてしまったのです。

不当な取調べ

取調べは直ぐに始まりました。
二本松さんが無機質な部屋に置かれた椅子に座るやいなや「おまえ! 運転席のドアで婦警の手を挟んだろう」と机をバッンと叩きながらまるで脅すように言いました。
二本松さんは暴行などしていません。
なのに、警官の手をドアで挟んだ暴行をしたことになっていたのです。

女性巡査はドアの外側にいたのです。
なのに、ドアに挟まれることがありますか?
ドアの内側には、二本松さんの体があったのですよ。

別室では妻の月恵さんの取り調べが行われていました。
取調官は二本松さんと月恵さんのところを行ったり来たりしました。

その男性取調官は「そうだよね。なにもなかったよね。ただ、ちょっとドアに当たったか触れたかくらいだよね」と柔らかい声で確認します。
月恵さんは「そうです。なにもありません」と暴行がなかったことを主張しました。
そして二本松さんと女性巡査の様子を、腕を使って説明したのです。
月恵さんはあくまで、ドアがフラフラするというのを表現したのです。
ドア越しに口論していました、ということを言いたかったのです。
すると、取調官は急に態度を変え、月恵さんにはなにも応えずに二本松さんのところにやってきます。

取調官は部屋に入るなり「おまえ! 女性警官を肘で打っただろう!」
「奥さんがそう証言してたぞ!」と、証言を捻じ曲げ、二本松さんが暴行したと言ってきたのです。
それに加えて女性警官の手をドアで挟んだ暴行まで、でっち上げたのです。

二本松さんは警察によるでっち上げられた二つの暴行罪で勾留されてしまったのです

勾留二日目、検察庁による担当検事の取り調べが行われました。
一方、妻の月恵さんは、事件現場の築地に行って騒動の目撃者を探すことにしたのです。
そこへ目撃者の一人が名乗り出てきました。
「暴力なんてなかった。あれはひどかった」そう語ってくれたのは、築地市場で卸売りの仕事をしていた小川さんです。
小川さんは、事件の一部始終を目撃していたのです。

これは事件の重要な点です。
目撃者がはっきりと“暴行はなかった”と証言しているのです

しかも、小川さんは担当検事に証言してくれたのです。
「100人以上も目撃者がいたのだから、他にも聞けばいいじゃないですか」という小川さんの言葉に対して検事が言ったことは「警察によると目撃者は見つからない」なのです。
100名くらいの群衆があったにも関わらず、警察は目撃者がいないと検察に報告していたのです。
小川さんはこのとき“隠蔽の意思”を感じたといいます。

勾留19日目。
取調べは続きます。
担当検事は机の上に置かれていた決済箱を事件当日、女性巡査が持っていた切符カバンに見立てて胸の前で持ち、二本松さんに対して手で押すようにいいました。
わけがわからない二本松さんは言われるがまま箱を押します。
すると、「振動が胸に伝わる」「あのとき、あなたの腕が婦警の持つ切符カバンに触れ、その衝撃が伝わるということはあり得ることなんじゃない?」と、いかにも二本松さんが暴行をしたように言ってきました。

二本松さんは考えました。
たしかに二本松さんの腕が切符カバンに触れた可能性はあったかもしれない。
しかし、先に切符カバンを突き出してきたのは女性巡査のほうです
二本松さんは、自分に突き出されてきた切符カバンに反射的に手をだしたというのが二本松さんの行動だったのです。

検事はさらに二本松さんに言います。
「婦警の持ち物に触れただけでも公務執行妨害となる判例もあるんです」
カバンを押し付けてきたのはあくまでも女性巡査のほうです。
そこを無視して良いのでしょうか?
カバンに触れただけで公務執行妨害になるのはあまりにも行き過ぎではないでしょうか。

「あなたの肘が切符カバンにあたったと認めれば起訴はしませんから」
その検事の理不尽な言葉に二本松さんには怒りがこみ上げてきました。
このとき頭をよぎったのは経営する寿司店のことです。
これ以上拘留が長引けば店の経営は深刻な打撃を受けてしまう。
そして二本松さんが戻ってくるのを待っている月恵さんを楽にしてあげたい、そんな気持ちがよぎったのです。
とうとう、二本松さんは、担当検事が書いた供述調書にサインしてしまったのです。
二本松さんは起訴猶予となりましたが、やってもいない罪を認めさせられてしまったのです。

二本松さんがサインした理由のひとつに、弁護士が起訴されたら100日は拘留されてしまうということがありました。
100日も拘留されてしまったら、寿司店の商売が台無しになってしまうと思ったからです。

サインはしたものの、二本松さんはこのとき心に決めたことがあったのです。
それは裁判を起こして戦うということです。

公権力との戦い(裁判)

二本松さんは自らの無実を証明するために裁判を起こします。
訴えた相手は「警察」「検察」「裁判所」です。
具体的に言うと、
暴行をしていないのに公務執行妨害で現行犯逮捕した警察。
19日間二本松さんを拘留し、やってもいない罪の自白を迫った検察。
勾留を認めた裁判所。

警察は築地警察署なので東京都。
検察と裁判所は国。

これはいわゆる国賠訴訟(国家賠償訴訟)と言われるものです。
刑事事件の場合、国賠訴訟で勝つことは非常に難しいのが実情です。
ですから、弁護士のなかでも国賠訴訟は、勝てないから引き受けないということが多いようです。

2009年12月、東京地方裁判所で二本松さんの裁判が始まりました。
弁護を引き受けてくれたのは、国賠訴訟経験の豊富な弁護士の今泉義竜さんと小部正治さんでした。
裁判で警察が嘘の筋書きをでっち上げたことを証明する。
これはとてつもなく難しいことなのです。

ここで問題になったのは、嘘の筋書きである調書などの証拠が二本松さんの手元に無かったことです。
基本的に、事件の記録は検察庁に保管されています。
それを部外者が見る権利は無いのです。
証拠を出すか出さないかは国の自由だと決められているのです。

警察の嘘を暴くには、警察がどんな嘘をついているのかを知らなければなりません。
そこで弁護側は、警察及び検察が持っている供述調書や目撃者の証言の提出を要求したのです。
この申し立てに対して警察はいくつかの書類を提出してきました。
しかし、その内容は、
「月恵さん(妻)の車の鍵の写真」
「薄っすら赤くなった女性巡査の右腕の写真」
など意味のない資料ばかりだったのです。

要求したのは、供述調書や目撃者の証言なのですよ。
これは原告側の要求を鼻で笑って無視したことだと言えるのではないでしょうか。

これに対して弁護士は、事件の詳細が書かれた供述調書や資料があるだろう。
それを出せと再度要求しました。
すると、被告側(警察・検察)の代理人は耳を疑う言葉を言ってきたのです。
それは「原告側の要求する文書が公になると女性巡査の名誉やプライバシーが侵害されるおそれがあります。よって提出しかねます!」

「プライバシーの問題」
「そもそも開示を予定していない」
「内部的な文書」
という理由や理屈をつけて提出を拒んだのです。

弁護側は確信します。
事件に関連する書類を提出しないのは、その中にほころびや矛盾を見つけられるのが怖いのではないかと。
弁護側は裁判官に証拠書類の提出命令を出すように必死に訴えましたが、なぜか応じてくれなかったのです。

こうした戦いの日々で妻の月恵さんは責任を感じて体調を崩し、入退院を繰り返すようになってしまいました。

そんななかに救いの手が差し伸べられたのです。
小川さん以外にも新たに3人の目撃者が「暴行はなかったと」証言することを約束してくれたのです。
弁護側は、真相の糾明には目撃者の証言が必要だと強く訴え、目撃者の出廷の承認を求めました。

ところが、裁判官の返答は驚くべきことだったのです。
「本法定では、原告、被告、お互いの主張を精査すれば十分と考えます。よって目撃者の証言は必要なしと判断します」
とんでもない話です。
証人が4人もいるのに裁判で1人も採用しないということは、原告側を負かすためにしているとしか言いようがありません。
今泉弁護士と小部弁護士は腹が立ったと述べています。

法律の勉強をしていないまったくの素人の世間一般の人はこれをどう思うでしょうか?
裁判所というのは公平な判断をする場所であると信じているのではないでしょうか?
警察及び検察だけではなく、裁判所までも自分たちの責任を回避するために自分たちを守ろうとしているとしか見えないのではないでしょうか?

このとき二本松さんは思ったそうです。
「いったいこの裁判はなんなんだ。自分たち(警察・検察)が持っている不利な証拠は出さない。こんな隠蔽をする権利は無いはずだ」
同時に極めて不利な状況に困ってしまったのです。

『警察が嘘をついて冤罪を生みだした!【中編】』に続く!

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