『オリンパス社員が味わった内部通報の悪夢(上司たちとの1000日戦争)【後編】』

まずは『オリンパス社員が味わった内部通報の悪夢(上司たちとの1000日戦争)【前編】』をお読みください。

【逆転への道のり】

一審での判決後、濱田さんは東京高裁に控訴します。
公益通報者保護法違反で訴えることが出来なくなった濱田さんは、新たな戦術を考えだします。

それはコンプライアンスカードに書かれてあることを利用することにしたのです。
「相談や申告の事実と内容は、秘密の厳守が保証され、通報者が不利益な処遇を受けることは一切ありません」
これは会社が定めた社規則のコンプライアンス規定で定められていたことなのです。
そこで会社の規則違反を訴える作戦に出たのです。

それと会社の報復人事ではないということを覆す必要があります。
そこで濱田さんは新たな弁護士に頼ることにしました。
そして見つけたのが内部告発をめぐる裁判を多く手掛けている中村雅人弁護士です。

中村弁護士は、引き受けるにあたって濱田さんの家族のことを心配したと言います。

それは勤めている会社を訴えるわけですが、その会社からもらう給料で家族全員の生活を維持しているので、家族が本当に父親を支えて一緒に裁判を闘う気持ちでいるのかどうかを確かめたかったのです。

ですが、濱田さんの家族は共に長い裁判を闘い抜く決意をしてくれたのです。
ありがてぇーじゃね~か!
良い家族じゃね~か!
アチキは泣けてくるね~!

さぁ、ここから会社の主張を崩す戦術を練ることになります。
そこで中村弁護士を中心としたチームが行ったことは、会社の年表を作ることでした。
何年何月何日にどんなことがあって、その後どういうふうになっていったのかということを詳細に時系列順に並べることで真実を浮き出そうとしたのです。
具体的には、内部通報の2年前までさかのぼって年表を作成したのです。

そこで見えてきたものがあったのです。
そもそも濱田さんがO部長の元にきた理由は、アメリカで実績を上げた濱田さんをO部長自らが高く評価して呼び寄せたものだったのです。
それは人事評価にも表れていました。
2007年の人事評価では116点でした。
制度上の最高得点は118点なので、かなりの高得点と言えます。

その3ヶ月後、濱田さんは内部通報を行いました。
するとその直後の人事評価で点数が急落(95点)しました。
(人事評価は半年に1回)

その後も点数は下がり続け(58点、55点、51点)、とうとう44.4点(内部通報から2年)となってしまったのです。
制度上90点の最低ラインである90点を大きく下回るということは明らかに不当な人事評価と言えます。

ポイントは濱田さんが内部通報した直後に配置転換されたかどうかという点です
実際に濱田さんが配置転換を言われたのは内部通報の2ヶ月後。
では、上司のO部長がそれを決めたのはいつなのか?
つまり、O部長が濱田さんの配置転換を内部通報の直後に決めたのならば、報復人事だということを強く主張できる。
また、適切な配置転換だという会社側の理屈も崩れることになる。

その証拠は意外なところにありました。
それは敗訴した一審でO部長が語った証言の中にあったのです。
「このときの(配置転換)の詳細の検討は7月だと思いますけど・・・」
と証言していたのです。
証言してしまったと言った方が正確でしょうか。
濱田さんが内部通報をしたのが6月ですから、その直後に配置転換を考えたことが明らかになりました。

しかし、必死に裁判で勝つための年表を作っている間に、濱田さんにさらなる過酷な境遇が待っていたのです。
「濱田君これ読んでおいて、月末に定期テストするから。よろしく」と渡されたのは「濱田君教育計画」と題した新入社員向けの研修教材だったのです。
この時期の濱田さんの仕事は、それを読み、毎月一回テストを受ける、ただそれだけだったのです。
これは誰の目にも明らかな嫌がらせです。
パワハラ以外の何ものでもありません。
それでも50歳に達していた濱田さんは、この屈辱的な仕打ちに必死に耐えたのです。

このとき濱田さんを支えていたのは控訴審で勝利を勝ち取ることでした。
その闘いで最も重要だったのが、配置転換後の仕事が会社にとって重要であり、濱田さんが適任者だったと主張していたことを覆すことです。
実は、濱田さんには強力な切り札がありました。

上司との嫌がらせでしかない面談のときに濱田さんはその会話を録音していたのです。
(もちろんオリンパス製の小型録音機です)
100時間にも及ぶその記録から濱田さんの仕事を重視していないことがはっきりしていたのです。

濱田さん
「なんでわたしと2人でお話しましょうって言っても一回もしてくれないんですか?」

上司
「もう必要性を感じないから。必要性を感じたらやるし、やるけれども必要性を感じていないからやらない

これを証拠として裁判所に提出しました。
さらに上司から受けた酷い仕打ちを詳細に訴えました。

裁判が始まって3年半。
2011年8月31日、控訴審の判決の日がやってきました。

裁判所の傍聴席では、妻と二人の娘が見守っています。

裁判長が判決を読み上げます。

その内容は、
濱田さんは今の仕事(配置転換後の仕事)をする義務はない。
会社と上司は濱田さんに対して賠償金を支払え。

逆転勝訴です!

濱田さんの内部通報が正当であったにも関わらず、上司の個人的な感情で制裁的に左遷されたと認められたのです。

逆転勝訴後の記者会見で濱田さんは、
「事実から逃げるわけにはいきませんでした」
「平和な普通のサラリーマン生活に一日も早く戻していただければと願っております」
と語っています。

その後、最高裁は上告を棄却
この控訴審での判決が確定しました

【内部告発の問題点】

会社内の不正を調査、対処することを内部の人間が行うことは至難の業です。
不正を正すには外部通報の窓口や組織を作るしかない。
(実際に弁護士などによる外部の不正通報窓口が進みつつあります)

なぜなら不正を行う人は権力や立場を利用していることが多いからです。
ですから、その組織に所属している以上、下の者が立場の上の者に立てつくことには限界があるのです。
“魚は頭から腐る”という諺(ことわざ)があります。
企業体であれば、経営者や経営陣が腐っていれば、いくら優秀な社員が頑張って仕事をしても、その組織体は汚染されていきます。
不正を正すには、頭(リーダー)を取り替えることが最善の方法なのです。

【サムライ魂ここにあり】

濱田さんが会社(上司)の不正を見逃さずに、裁判を起こしてまで戦い、一度は破れても(一審の敗訴)逆転勝利を掴んだことは、世の中に対してどう影響するのか。

それは、この濱田さんの事例が“裁判の先例としての価値が生じた”ことになるのです。
つまり、今後似たような内部告発の事例が発生したときに、判例としての用いられることになるということです。
そのことによって日本全体の労働環境の改善につながったと言えます。

濱田さんの逆転勝訴の後に、オリンパスによる巨額粉飾決算事件が発覚しました。
オリンパスという企業が長年にわたって巨額損失を隠していたことが一人の社員の内部告発によって明るみに出たのです。
巨額粉飾決算を首謀した経営陣は逮捕され、会社の体制は大きく刷新されました。
この粉飾決算の内部告発を成功させた社員は今に至るまで正体を明かしてはいません。
ですが、濱田さんの闘いを参考にしたと手記に記しています。
そうです、濱田さんの闘いが眠れるサムライ魂を呼び起こし、そのことによって無名のサムライがオリンパスという企業が持つ闇を暴き出すことに成功したのです。

濱田さんが会社の嫌がらせに耐え抜き、裁判で勝利することがなかったら、今でも巨額粉飾決算という不正は世の中の明るみに出てこなかったかもしれません。
濱田さんがしたことはオリンパスという会社を社員が誇りを持って働けるようにした英雄的行為だったと言えるのです。

普通であれば、所属する会社の不正を発見しても、個人の生活を守るために見て見ぬふりをして内部告発をすることも出来ないでしょう。
たとえ、内部告発をコンプライアンス室に通報できたとしても過酷なイジメ(パワハラ)に耐え抜いてその会社に居続けることはまさに至難の業です。
まして、裁判を起こし一度敗れたにも関わらず、敗訴から逆転勝訴を掴むことは尋常ではなし得ないことだと思います。
まさにサムライ魂ここにありです。

濱田さんが過酷なイジメに耐え抜き裁判を戦い抜いた動機はなんだったでしょうか?

それはオリンパスという会社は素晴らしい性能の製品を作っている。
優秀な技術者が多くいて一生懸命働いている。
なのに、私欲にかられた一部の人間が汚してしまう。
そのことに怒りを持ったことです。
(この場合の怒りとは個人的な欲から発生する怒りではなく、世のため人のためにならない悪を見逃せないという怒りです)

つまり、正義の怒りが濱田さんの戦う原動力だったのです。
こうした怒りを公憤と言います。
公憤とは、私的欲求を満たすための感情ではなく、自分という個人を超えて、自分以外の人の幸福のため、世の中を良くするためになると信じた人の持つ怒りです。
要するに正義の怒りなのです。

正義のヒーローは画面の中にだけいるのではありません。
濱田さんこそ現実に存在する正義のヒーローです。
わたしたち日本人が忘れつつあるサムライ魂を持った人なのです。

【世直しご意見番の意見】

アチキは思うんでありんす。
濱田さんこそ、オリンパスという会社を率いるに相応しい人物だと。
濱田さんを社長にせずして、誰を社長にするのか!
(濱田さんは現在、海外に赴任する若手社員の育成の仕事を任されています)

ですが、アチキは思う。
濱田さんにとっては、アメリカ赴任の経験を生かすことの出来るやりがいのある仕事かもしれませんが、オリンパスという会社を再生することが出来るのは濱田さんを差し置いて他にいないと思うのです。

その理由は、
オリンパスという会社を心から愛している
ニューヨークにて営業ナンバーワンの実績を残している。
不正を許さない正義感が強い
なにより、悪(不正)と闘う闘志を持っている

企業のトップに必要な資質にはいくつかありますが、そのなかでも“闘志”がなくてはなりません。
通常、企業のトップに上り詰めるには、なんらかの高い能力や実績などがなくてはトップまで駆け上ることは出来ません。
たとえ製品開発、営業実績などがあったり、人間関係を上手くまとめる能力があったりしてもそれだけでは企業のトップは務まりません。
世界と比較して日本という国の組織的特徴は、能力が高いことよりも年長であることや調和型(人の良さ)のタイプが出世しやすいということがあげられます。

ですが、企業は戦いをしているのです。
命のやり取りこそないものの、ライバル企業と争い、お客様を奪い合う経済戦争をしているのです。
ですから、ライバル企業と闘う闘争心は必須なのです。
また自社の内部に不正や怠慢などの悪をはびこらせないことが大切なのです。
人が良いだけでトップは務まらないのです。
(ここでいう闘争心とは、正しいことをした上でライバルに勝ち、顧客の満足や喜びを生み出すための正義感を含んだもののことです)

ときとして企業経営は苦境に立たされることがあります。
そんなときにトップが逃げたり、なにも出来なかったりする経営者だったら、社員の生活はどうなるでしょうか。
濱田さんには、苦境を闘い抜く忍耐力闘争心があります。
不正を憎み、正しきことを成すというサムライ魂があります。

濱田さんのような人が企業体のトップとなることが、さらなる世の中のためであり、
そうしたことが出来ない世の中なら、そうした世の中こそが間違っていると思うのです。

【日本のサラリーマンにもの申す!】

日本中のサラリーマンにもの申す!
不正を見逃すことは不正に関与することと同義である。
不正を見逃さず、闘え!
一人では闘えないのなら、仲間をつくれ!

日本人の心の底に眠るサムライ魂を呼び起こせ!

☆ご意見番に取り上げて欲しい事柄があれば、リクエストしてください。

お読みいただき、ありがとうござんす!


最新情報をチェックしよう!