『オリンパス社員が味わった内部通報の悪夢(上司たちとの1000日戦争)【前編】』

【上司たちとの1000日戦争】

もし、あなたが自分の所属する会社(組織)で不正行為を見つけたら、どうしますか?

長いものには巻かれますか?
告発しても潰されるから、目をつぶって知らない振りをしますか?
それとも、不正と闘いますか?

今回は、不正行為を内部告発し、闘った人に注目するでありんす。

オリンパス株式会社という大企業があります。
カメラなどの事業で有名な企業です。
このオリンパスという会社の社員である濱田正晴さんが上司の不正を内部告発したことが1000日戦争の勃発でした。

濱田さんは、上司が不正行為をしている疑いありと、社内のコンプライアンス室に内部通報したのですが、通報者が濱田さんであると上司にばらされてしまったのです。
(ありえんす~!)

待ち受けていたのは地獄の日々。
過酷なパワハラを受けたあげく、人事評価はあり得ないほどの低評価をつけられる。
そんな泥沼の日々から脱するために裁判を起こしました。

さぁ~どうなったでしょうか?

【不正を見逃せない】

2006年12月のことです。
K氏が中途採用されて濱田さんの所属する部署にやって来たことがことの始まりです。
実はK氏はオリンパスと取引のある製鉄会社の社員だった人物なのです。
その製鉄会社はオリンパスから見れば“お客様”。
つまり、お客様の大事な社員を引き抜いたのです。
それもただ引き抜いただけでなかったのです。

実はその製鉄会社には、鉄の品質をチェックする検査機を購入してもらっていたのです。
1億円以上もする高額商品です。
その取引をまとめた担当者こそK氏だったのです。
(当時は製鉄会社の社員)
この取引の直後にK氏は、引き抜きの形でオリンパスに入社してきたのです。

このことに濱田さんは疑いを持ちます。
同僚に話してみると同じ意見でした。
要は、高額の商品の受注を取りまとめたことの見返りに転職してきたのなら、“違法”ではないか? と、濱田さんは思ったのです。

2ヶ月後、濱田さんは製鉄会社の営業担当になり、挨拶に行きました。
すると製鉄会社の取締役がやって来て「何しに来た」と非常に憤慨して、怒りをぶつけてきたのです。
その理由は、K氏の引き抜きに対して不信感を持っていたことと、K氏がオリンパスに転職したことで製鉄会社の機密情報をライバル会社に洩らすのではないかと疑っていたからです。
そりゃそうですよね!
そのことを上司に相談すると、まともに取り合ってくれなかったのです。

その後しばらくして社内の飲み会が開かれたとき、K氏から驚く話を聞くことになります。
それは、もうひとりK氏と同じ製鉄会社から検査機の納入と引き換えにオリンパスに転職してくるというのです。

これは闇取引と言っていいでしょう。
つまり、オリンパスが採用するから、そのかわり検査機の受注を取りまとめてくれということです。
検査機の受注と転職採用を交換条件にしたのです。
卑怯なやりかたです。

いったい誰が一連の取引を主導しているのか?
考えられるのは一人だけです。
それは濱田さんの上司であるO部長です。

このままでは社内の信用がガタ落ちになる、そう思った濱田さんは会社のコンプライアンス室に内部通報することにします。
所持していたコンプライアンスカードにはこう書かれていました。
「相談や申告の事実と内容は、秘密の厳守が保証され、通報者が不利益な処遇を受けることは一切ありません」
濱田さんはこの文章を信用して通報したのです。
するとその日のうちにコンプライアンスの室長が会社の近くの喫茶店で話を聞いてくれることになりました。

濱田さんから話を聞いたコンプライアンス室長は、
「引き抜きが事実であれば、これは問題です。きちんと調査して対処します。調査の結果は後ほど連絡しますので」
コンプライアンス室長の言葉を聞いて濱田さんは、不正への対処も秘密厳守もしっかり行ってくれるものと信じました。

ところが、濱田さんの人生は奈落の底(地獄を意味する)へ突き落されることになったのです。
数日後、コンプライアンス室長からメールが送られてきました。
メールの内容は、「この引き抜きは道義的な問題があり、二人目の採用は控えるべき」と書かれていました。
しかし、このメールの受信者の欄を見ると、なんと濱田さんの他にO部長にも送信していたのです。
ありえね~!
このとき濱田さんは頭の中が真っ白になったと述べています。
そうです、濱田さんが内部告発したことが、直属の上司(問題の上司)にばれてしまったのです。

このことをコンプライアンス室の室長に問いただすと、「大変申し訳ございません。どうかご容赦ください」と、ただただ平謝りするだけでした。
(アチキは怪しと思うぜ!)

その後、コンプライアンス室長の提案で、濱田さんとO部長の3人で“関係修復の会”が開かれました。
ところが開始2分後、コンプライアンス室長は退室して逃げてしまい、O部長と2人きりにされてしまったのです。
するとO部長は怒りを爆発します。
「お前、覚悟して言っているのか? せっかく2人一緒に引き抜くと問題になるから慎重にことを進めていたのに・・・」
これって、自分がいけないことをしている自覚があるってことですよね!

濱田さんは反論します。
「私たちの会社も、みんなも困るんです」
O部長は自分の非を認めずに一方的に濱田さんを責め続けました。
関係修復どころか、怒鳴り散らされただけで終ってしまいました。
コンプライアンス室長、役にたたね~!
むしろ、害!

【想像を絶するパワハラ】

二ヶ月後、配置転換(人事異動)が申し渡されます。
「新規事業技術探索活動を申し付ける」
それはまったく専門外の仕事でした。
しかも、直属の上司はあからさまに冷たい態度を取る。
濱田さんの仕事は「構造ヘルスモニタリングの市場調査」という名目でしたが、実はすでに会社内でこの事業は10年先までビジネスにならないと判断されていたものだったのです。
要するに、すでに結論が出ている意味のないことを濱田さんにさせることで嫌がらせをしたのです。

配置転換後の濱田さんは次のような状況に追い込まれていきました。
・業務用の携帯電話の没収
・取引先や他部署との接触禁止
・社内で同僚と話せなくなる

会社側とすれば正当な理由なく解雇すればそれこそ問題になります。
だから、左遷、嫌がらせ、孤立化など、会社内に留まることを諦めるようにあらゆる手を使って自分から退職するように追い込んでいったのです。

〈内部通報者への報復〉

消費者庁の調べによると、内部通報者が受けるパワハラで一番多いのが“人事の不利益(賃金が減るを含む)”で2番目に多いのが“嫌がらせ”となっています

【不正との戦い】

濱田さんはなぜ不正を見逃さなかったのか?
という質問に対してこう答えています。
「不正を見逃せば、自分も悪いことをやっている一味になってしまう」

こうした状況に置かれれば大抵の人が会社を辞職してしまうのではないでしょうか?
しかし、濱田さんはオリンパスを辞めなかったのです。
それは「オリンパスを愛していたから」と答えています。
濱田さんはバイクとカメラをこよなく愛するメカマニアだったのです。
そんな濱田さんには輝かしい経歴があります。
カメラ担当としてアメリカのニューヨークに赴任。
そこで全米ナンバーワンのセールスマンとなって会社から表彰されていたのです。

そんな濱田さんは、会社を相手に裁判を起こす決意をします。

【上司たちとの1000日戦争の始まり】

濱田さんがまずしたことは、会社の同僚たちに証言をしてもらうよう頼んだことです。
濱田さんの心意気に感じ取った同僚の数人は陳述書を書いてくれました。
上司の制裁的態度は社内の人たちにも伝わっていたのです。

2008年3月、ついに裁判が始まります
濱田さんが訴えたことは“公益通報者保護法違反”というものです
(公益通報者保護法とは、組織(会社など)の内部不正を通報した人を不当な扱いから保護するために作られた法律です)
濱田さんの訴えは、不正を内部通報したことによる不当な人事(左遷など)を認め、元の営業職に戻すことでした。

しかし、会社側は濱田さんの主張に真っ向から反論してきました。
証言台に立ったコンプライアンス室長の反論はこうです。
「承諾を得た(濱田さんに)ということは再三確認をした上で対応しましたので、お詫びする必要はなかったと思います」
??
内部告発をする人が上司に知らせてもいいなんて承諾することがあり得ますか?
これは会社側の隠蔽工作です。
嘘までついて会社の不正を無かったことにする不正の上塗りです。
コンプライアンス室の室長は幼稚園時代に嘘をついてはいけないと教わらなかったのでしょうか?
嘘をついてはいけないというのは、世界の宗教で説かれている人類普遍の教えです。
嘘をついて人を騙し、平気な顔をするということは人間として非常に恥ずかしいことです。

さらに証言台に立ったO部長は驚くべき反論をしてきました。
「新規事業の活動、こっちも今後強化していくんだぞと・・・」
10年先までビジネスにならないと会社が判断した仕事にも関わらず、会社にとって重要だと言い始めたのです。
しかも配置転換は報復人事ではなく、濱田さんのこれまでの営業実績を考慮しての適切なものだというのです。
あまりにも強引で身勝手な主張。
そして
こんな主張が裁判で認められるはずがない、濱田さんはそう思ったそうです。

こうして濱田さんは会社の上司たちからパワハラを受けることになります。
月に一度の上司面談であからさまに叱責(嫌がらせ)をされ、半年に一度の人事評価では明らかに不当と思える低い評価が続き、44.4点とうあり得ない数字にまでなったのです。
本来、オリンパスの人事評価は、労働協約により病気やケガでまったく出社できなくても90点はもらえると定められているのにも関わらずです。
濱田さんは「44.4点」という数字の意味を「死ね、死ね、死ね」だと思ったそうです。

ある日裁判官から“和解協議”をしたいとの申し出がありました。
そこで濱田さんは奥さんと東京地方裁判所に行きました。
すると裁判官たちはこう切り出しました。
「双方の弁護士と相談して決めたことです。コンプライアンス室の運営を正す良い和解案ですよ」
と言って手渡してきた資料に目を落とすと、その内容に愕然とします。
なんと、濱田さんの仕事はいまのまま。

元の営業職に戻すどころか、“会社に謝罪しろ“というのです

ありえんす~!
これのどこが和解案なんでしょうか?
アチキにはまったく理解できません!

濱田さんはこの和解案を断固拒否します。
すると中立であるはずの裁判官が退室の際に、奥さんに「どうなっても知りませんからね!」と、脅しともとれる言葉を吐きました。
これが正義の裁きをする裁判官の言葉でしょうか?
ありえんす~!

追い詰められた濱田さんはストレスから無意識に爪を噛むようになって、気がつくと指先が血まみれの状態になってしまいました。
そんな濱田さんの様子を見て娘さん2人がケア手袋を買って気遣ってくれたそうです。
父親が会社でイジメを受けている。
それは娘たちにとっても辛い現実だったのです。

そんな家族の応援と望みは無残にも打ち砕かれてしまったのです。

2010年1月15日、一審での判決の日。

「原告(濱田さん)の請求をいずれも棄却する」

「訴訟費用は原告の負担とする」

裁判長の声が空虚な裁判所に響きます。
一審は濱田さんの完全敗訴となりました。

〈完全敗訴の理由〉

敗訴の理由①

「公益通報者保護法の問題点」
公益通報者保護法は、通報者が会社の法律違反を証明(立証)しなければならないとされているのです。

(こんなバカな法律ありますか? 通報者に法律違反の立証責任を負わせるなんて、この法律は名ばかりで役に立たない法律です)

K氏の引き抜きが罪に当たるかどうかということが、法律違反の“疑い”のレベルにしかないと判断されてしまったこと。
社員である濱田さんが、明確に法律違反であると立証することが出来なかった(難しかった)のです。

敗訴の理由②

濱田さんへの配置転換が「報復」ではなく、「適切」なものだったと判断されたことです。
会社側の主張である、配置後の濱田さんの仕事は会社にとっても重要で、濱田さんが適任だという主張が認められたということです。

『オリンパス社員が味わった内部通報の悪夢(上司たちとの1000日戦争)【後編】』に続く。

お読みいただき、ありがとうござんした!


最新情報をチェックしよう!