『警察が嘘をついて冤罪を生みだした!【中編】』

まずは『警察が嘘をついて冤罪を生みだした!【前編】』をご覧くださいな!

国賠訴訟の難しさ

警察に証拠書類の提出義務がない

これは裁判を起こす訴えた側に大きなハンディキャップがあることを意味します。
つまり、事件の証拠を相手側が全部持っているので攻める道具がないということになるのです。
裁判を起こす前に情報公開請求(情報公開制度)が出来るのですが、警察が持っている書類などに関してはほとんど認められないというのが実情なのです。
理由は、捜査の秘密を害するということです。

裁判が長期化しやすい

「資料をだせ」「いや、出せない」という水掛け論になってしまって裁判が長引いてしまうのです。

③金銭的・精神的負担が大きい

長期化する裁判で精神的に疲れてしまったり、弁護士費用などがかさんでしまったりするのです。

勝率が低く、賠償金が少ない

一般的に言って、裁判にもし勝てたとしても国賠訴訟の賠償額は大変低いものなのです。

こうした状況の中に置かれたときに人間の気持ちはどうなるでしょうか?
おそらくほとんどの人が諦めてしまう(泣き寝入り)のではないでしょうか。
ですから、国賠訴訟を起こす人は非常に少ないのです。

うがった見方をすれば、国を相手に裁判をしたら泣き寝入りするように出来上がっている、としか見えないのではないでしょうか。

警察の嘘を暴いた突破口とは?

2012年、裁判は4年目を迎えます。
弁護側は諦めることなく裁判官に証拠書類の提出命令を出すように求め続けました。
過去の判例でも、供述調書の提出命令が出されたことを主張したのです。
すると、裁判官は、被告に対して女性巡査の供述調書などの書類を提出するよう命じたのです。
執念の粘りとしか言いようがありません。

女性巡査の供述内容とは?

「平成19年10月11日、築地市場周辺の駐停車違反の取締りを行っていたのですが、その際、違反駐停車をしていた男性に胸を突かれ、私の正当な職務の執行を妨害されるとともに、その男性が閉じようとしたドアに手首をぶつけて怪我を負わせられましたので、そのときのことについてお話します。」

「何が駐車違反だ、これが違反なら他の車も同じだ。などと言いながら、私の胸を、両肘を曲げた状態で両腕を交互に前に出して3回くらい連続して押してきたのです。」

「男性が、急にドアを閉めようとしたので、私は、とっさに右手で閉まってくるドアを押さえ、ドアが閉まるのを阻止しました。当たったのは、ドア枠の、窓とドア部分の境目くらいのあたりだったと思います。私の右手首の小指側に強く当たり、強い痛みを感じました。」
(原文のまま)

警察はこの女性巡査の供述に基づいて再現写真を作成しています。
その写真も裁判に提出されていました。

嘘には必ずほころびがある。

弁護側は必死にほころびを探します。
すると、ひとつの矛盾が浮かび上がってきたのです。

警察の再現写真に違和感があったのです。
女性巡査の主張である右手首の小指側に強く当たったというところです。
弁護側はそのことを確かめるために検証実験をしました。
すると、右手首には当たらないことが判明しました。
供述調書によれば、女性巡査はドアと車体の間に自分の体を入れて前方向を向いて立っていました。
二本松さんはドアの外側に立っていたと主張しています。
そして、二本松さんがドアを閉め、女性巡査が右手でそれを阻止していた。
しかし、検証実験をしてみたところ、右手はガラスの位置におかれ、ドアの下方であるドア枠のあたりにくることは極めて不自然であることがわかったのです。
しかも、右手首の小指側が当たるということは常識では無理なことだったのです。

そもそも立ち位置が真逆です。
女性巡査はドアの内側に立ってはいませんでした。
女性巡査が立っていたのはドアの外側です。
ドアを閉めようとした二本松さんが内側に立っていたのです。
立ち位置が逆なのです。

矛盾でしかない!

この事実は複数の目撃者が目撃しているのです。

2013年、裁判は5年目を迎えます。
ここで大きな山場を迎えます。
女性巡査が裁判の証人台に立ったのです。
そこで改めて受けたとされる暴行について証言しました。

弁護側と女性巡査のやり取りはこうです。

弁護側
「あなたは原告からどのような暴行を受けたのでしょうか?」

女性巡査
「男性は私に対して両肘を曲げて交互に私の胸の方に突いてきました。」

弁護側
「あなたに直接あったったのですか?」

女性巡査
「いえ、胸に当たってはいけないと思いとっさに持っていたカバンで胸を覆いました。」
(この証言は、担当検事が二本松さんに押し付けた内容と同じものです。)

しかし、記録によると女性巡査はもともとまったく違う供述(現行犯逮捕手続き書による)をしていたのです。

二本松さんを現行犯逮捕した直後には「左右の手をL字に曲げ女性巡査の胸を3回小突いた」と言っていたのです。

(腕をL字にして肘を上から振り下ろすような攻撃です)

しかし、逮捕後の実況見分(実況見分調書による)では「腕で突き飛ばした」となっています。
もっとも大切な暴行の証言が何度も変っているのです。

弁護士は女性巡査を問い詰めました。
すると女性巡査は、「腕を曲げて肘で突いてきたので、切符カバンで胸を覆ったところに当たりました」と答えます。
ここから弁護士の反撃が始まります。
「肘ですか? おかしいですね? 事件当時あなたはそういう表現はしていないじゃないですか?」
「そうですか」

弁護士は事件当日に行われた実況見分調書を読み上げます。
「これによると事件直後、肘で突かれたとは言わず腕で突き飛ばされたと言っていますね」
「その書き方は私にはわかりません」
女性巡査は、微妙な表現の違いなどたいしたことではない、そうした雰囲気を醸し出して、あくまでも自分は被害者なのだという姿勢を崩しません。

このとき弁護側は、女性巡査の証言を突き崩す強力な証拠を握っていたのです。
それは逮捕直後に警察が実況見分した証拠写真の中にありました。
その写真に写る女性巡査はカバンを持っていなかったのです。
女性巡査は「胸に当たってはいけないと思い、とっさに持っていたカバンで覆いました」
と証言していたのです。
写真にはカバンなどどこにも写っていなかったのです。

弁護側はこの矛盾点を鋭く追求しました。
「これは、どういうことですか?」
「それは・・・」
女性巡査は答えられず黙ってしまいました。
誰の目にもおかしい答弁でしかなかったのです。

なぜ、実況見分でカバンを写さなかったのか?
それは事件当初、女性巡査が直接肘で胸を突かれたと嘘をついていたからなのです。
だから、証言写真にはカバンを写さなかったのです。

その後、検察は切符カバンに肘が当たったという調書を作成。
その調書に合わせて女性巡査が証言を変えていたのです。

子供でもわかる矛盾を追求されても、女性巡査は嘘を認めることはありませんでした
結局、裁判官の判断に委ねられました。

決着のとき

2016年3月18日。
ついに判決の日を迎えます。

裁判長が判決を読み上げます。
「主文 被告・東京都(警察)は原告・二本松進に対し240万円および年5分の割合による金員を支払え」
傍聴席からは自然と拍手が沸き起こりました。

支援してくれている人たちでさえ勝つことが難しいと思われていた裁判で、みごと勝利したのです。

判決文には次のように書かれていました。
「L字に腕を曲げて小突く」「腕で突き飛ばす」「切符カバンに交互に肘打ち」

“その都度変わる女性巡査の供述には看過することができない変遷または齟齬がある“

と女性巡査の証言の真否を厳しく指摘していたのです。

また、ドアに手をぶつけたという暴行に関しても、

“右手首付近にドアの枠が強く当たるということは考えにくいといえる”

これは原告側の主張が全面的に認められたことになります。
その結果“違法に本件逮捕を行ったというべき”という結論に達したのです。

〈判決の概要〉
警察(管轄する東京都)に対しては、240万円の賠償責任。
検察および裁判所(国)に対しては、責任なし。

控訴は棄却され、この判決が確定したのです。

二本松さん夫婦の9年間におよぶ公権力との戦いはこうして幕を閉じたのです。
これは執念でつかみ取った逆転勝利と言っていいでしょう。

なにが過酷な公権力との戦いを支えたのか?

こうした過酷な国賠訴訟を戦う二本松さんの心の中になにがあったのか?
それは「公権力を持った相手でも許してはいけない」という思いなのです。
同時に「きちんと自分が無実であるということを証明したい」ということだったのです。

二本松さんの心には、こうした不正を許してはいけないという公憤(私的な恨みではなく公けのための怒り)が巨大な公権力と戦う心の支えだったのです。

二本松さんは、現在、冤罪被害が起きるこの国の現実を多くの人に知ってもらうために講演などの活動を行っています。
それは社会を少しでも変えていく力となり、このような冤罪被害が二度と起きないようにしたいとの思いからなのです。

『警察が嘘をついて冤罪を生みだした!【後編】』に続く!

☆ご意見番に取り上げて欲しい事柄があれば、リクエストしてください。

お読みいただき、ありがとうござんした!


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